フットボールの真実 大住良之

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help リーダーに追加 RSS 第210回 オシム監督のサッカーと日本代表のこれから(下)

<<   作成日時 : 2006/08/28 10:48   >>

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 日本代表チームは、いまや日本サッカー協会の財政を支える屋台骨です。約170億円の年間予算のうち、日本代表関連事業で得られる収入が約100億円にものぼっています。そしてその柱が、メインスポンサーのキリンビール、オフィシャルサプライヤーのアディダス、そして各種親善試合のテレビ放映権なのです。

 日本代表が稼ぎ出す資金は、日本代表の強化、ユース世代の育成だけでなく、いろいろな大会の開催費に当てられたり、指導者や審判員の養成、指導者の雇用などに使われて、日本のサッカーを動かしています。それがなくなったら、日本のサッカーは数十年前の状態に戻ってしまうかもしれません。

■代表の活動は「強化」か、「事業」か

 しかし何事にもバランスが必要です。日本代表の強化と日本代表事業は、いまバランスが取れているでしょうか。スポンサーとの契約の試合をこなすために、不必要な国際親善試合が組まれたことがこれまでにもたびたびありました。2004年8月のアルゼンチン戦には、ジーコ監督も「選手たちがアジアカップで疲れきっているときに、なぜこの試合が必要だったのか」と、怒りを表明しました。

 強化か事業かと、簡単に割り切ることはできません。しかし現状では、事業が走りすぎ、強化は事業部門が用意した舞台の上でただ踊るだけになっていないでしょうか。日本代表のスケジュールは、何よりもまず効果的な強化の観点からなされなければならず、そのためには代表監督の意向、プランが最重要視されなければならないのに、代表監督が希望を出そうとしたら、すでに事業部門の都合ですべて決まっているということになっていないでしょうか。

■オシムと協会の「食い違い」はここにある

 イビチャ・オシム監督の就任に際し、私が最も懸念したのはこの点でした。ジーコ前監督は、協会の事業姿勢を受け入れてきました。そのためにワールドカップで失敗したのかどうかはここでは論じませんが、オシム監督は、あくまでチームづくり、日本代表の強化を優先した日程を求めるでしょう。ことしは、就任前に決まっていた日程をこなすしかないとがまんしていても、来年からはまったく違ったことを要求する可能性があります。

 それが事業部門の意向とバッティングしたら、日本サッカー協会はどういう判断を下すのでしょうか。「言うことを聞かないのならやめろ」とは言わないでしょう。日本サッカー協会は過去にそういう形を示したことはありません。しかし実際には、それと同じようなことをしたことはあります。2000年春のトルシエ監督解任騒動がまさにそうでした。

■「アジアカップ3連覇」の要求は「クビ」の兆候

 オシム監督の場合には、協会が切りたいと思ったら、来年7月のアジアカップ優勝を「続投」の条件にするかもしれません。そんな話が出てきたら、気をつけなければなりません。

 たしかに、2000年、2004年と、日本は連覇を飾りました。しかしアジアカップは簡単な大会ではありません。あんなに強い韓国がもう40年間以上優勝していないという事実だけで、その難しさがわかるはずです。「優勝」が義務づけられたら、それは協会がオシム監督をクビにしたがっている明確なサインと思わなければなりません。

 あるいはまた、オシム監督が協会の方針にあきれて契約を放棄してしまう可能性もあります(私は、この可能性のほうが大きいと思っています)。代表強化のためにならない無意味な親善試合を繰り返し、あるいはJリーグとの調整がうまくいかず、思うような強化ができないのであれば、代表監督という責任ある仕事を続けることはできないと思うのは、ごく当然なことです。

■日本サッカーの「喪失感」を乗り越えるとき

 日本のサッカーに新しい息吹を吹き込み、本当の意味で世界に通用するレベルに引き上げてくれる力をもったコーチとして、現在、オシム監督以上の知恵と能力と情熱をもった人はいないと、私は確信しています。オシム監督が代表監督の座から引きずり下ろされたり、あるいはまた、オシム監督自身が愛想を尽かしてしまうとしたら、日本のサッカーにとって非常に大きなマイナスです。

 2006年ワールドカップの惨敗で、日本のサッカーは方向性を見失い、何を信じていいのかわからない状態にあるように思います。92年にハンス・オフトが初めての外国人監督になって以来、こうした「喪失感」はありませんでした。日本代表は、いま、非常に大きな危機にあり、重大な岐路に立たされているのだという現実を直視しなければなりません。

 こうしたときに、私たちは、イビチャ・オシムという、願ってもない代表チーム指導者を得ることができました。Jリーグを犠牲にせよなどという極論を言うつもりはありません。しかしいまは何よりも「代表強化」を最優先して考えなければならないときだと思うのです。オシム監督に、その知恵と能力と情熱をフルに発揮してもらわなければなりません。私は、そのサポートを惜しまないつもりです。

第209回 オシム監督のサッカーと日本代表のこれから(中) 8/26
第208回 オシム監督のサッカーと日本代表のこれから(上) 8/18

大住良之(おおすみ よしゆき)
1951年神奈川県横須賀市生まれ。中学生のとき66年ワールドカップ・イングランド大会の放送を見てサッカーにのめり込む。74年一橋大学卒業後、ベースボール・マガジン社入社、「サッカー・マガジン」編集部勤務。78年より編集長。82年同社退職後、(株)アンサー所属。88年よりフリーランスのサッカージャーナリストとして活動。
74年西ドイツ大会以降7回のワールドカップ取材をはじめ、多くの国際大会、世界各国のサッカー事情を取材。新聞・雑誌を中心に執筆活動を続けている。
アジアサッカー連盟「1998年フットボール・ライター・オブ・ザ・イヤー」受賞。
「日本サッカーライターズ協議会」事務局長。
女子サッカーのクラブチーム「FC PAF」監督。
<主な著書>
「理想のフットボール 敗北する現実」(双葉社 2004)
「代表戦記」(日本経済新聞社 2004)
「がんばれ! 女子サッカー」(共著 岩波書店 2004)
「アジア最終予選」(双葉社 2005)


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