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もし純粋にピッチのなかで行われるサッカーという競技を愛している人が見たら、Jリーグは世界でもトップクラスに面白いと言うに違いありません。連覇を目指して優勝争いをしているディフェンディング・チャンピオンが、アウェーで下位のチームを相手に後半30分過ぎまで2−0とリードしながら、その後わずか7分間で3失点を喫して2−3で敗れるなどという試合が、世界のどこで見られるでしょうか。 ■チームの財政規模が、必ずしも順位に反映するわけではない 昨年のJ1は34節のリーグ最終日に5つものチームに優勝の可能性が残されていました。昨年、最終節を迎えたときに首位に立っていたチームが、1年後には残留争いで苦しんでいます。こんなことも、あまり例がないでしょう。 18クラブで戦われているJ1。しかし調子の差はあっても、力の差は大きくはありません。ヨーロッパや南米では、クラブの財政規模がそのままチーム力の違いに反映されますが、J1では年間予算が15億円(大分)から58億円(浦和=いずれも、2005年の数字)と大きな差があっても、それがそのまま勝ち点の差になるわけではありません。 J2にいた2005年の年間予算がわずか6億7000万円で、今季J1に上がっても10億円を少し超える程度の甲府が、並み居る「ビッグクラブ」のなかで対等に戦い、堂々と中位につけているという事実だけでも、Jリーグがヨーロッパや南米の尺度では計れないリーグであることがわかると思います。 ■すべての試合を勝ちにいくサッカー Jリーグの非常に大きな特徴は、大半のチームが「勝とう」としている点にあります。同じように見えて、「負けまい」という姿勢で試合に臨むのと、「勝とう」とするのでは大きく違います。 たとえば、今季のJ1では、下位3チーム、福岡、C大阪、京都が僅差で競り合い、「残留圏」から少し離れてしまっているものの、どこかひとつが自動降格を免れ、入れ替え戦を戦う権利を得られる状況にあります。1勝ち点でも大きな意味をもつこうした状況であれば、この3チームは、少なくともアウェーでは守備を固め、0−0の引き分けにもち込もうとするのが当然の考え方ではないかと思います。 ところがJリーグのクラブは、この状況でもすべての試合を勝とうとするのです。 勝つために、彼らは「良いサッカー」をしようとします。リスクを冒して攻め込もうとするのです。C大阪は、アウェーでも4人の攻撃的プレーヤーをピッチに送り出し、攻め勝とうとします。 そしてそれは、中位のチームも、そしてまた優勝争いの真っ只中にあるチームも同じです。ホームでもアウェーでも、多くのチームが、自分たちの攻撃面の長所を前面に押し出したサッカーで勝とうとするのです。 ■浦和だけが異質なサッカーをする 唯一、異質なサッカーをしているのが浦和です。控えにもずらりと日本代表経験者が並ぶ豪華なメンバーをもちながら、浦和は「良いサッカー」より、徹底的に勝ちに徹したサッカーをします。1点リードすればその後はリスクを冒さず、相手が出てくるところにカウンターを仕掛けてとどめを刺そうというサッカーをするのです。 私自身は、こうしたサッカーの賛美者ではありません。浦和のこうした試合によって、5万人もの熱烈なサポーターは勝利に酔うことができるでしょうが、けっしてサッカー自体を楽しむことはできないと思うからです。日本のチャンピオンになろうというチームに、勝負だけでなく、サッカーでも相手を圧倒してファンを楽しませようという意欲がないのは、残念でなりません。 しかし現在のJリーグでは浦和のようなサッカーは完全な少数派です。多くは攻撃的な志向をもち、果敢な全員攻撃でファンを楽しませようとしています。2003年にイビチャ・オシムがジェフ市原(現在は千葉)の監督に就任して以来、徐々に増えてきたスタイルです。ジェフだけでなく、いまでは、甲府、大分などいくつものチームがそうしたスタイルにチャレンジし、成功を収めているのです。 いや、現状では成功につながっていなくても、こうしたサッカーがファンを喜ばせ、スタジアムに人を引きつけてサッカーの発展につながることを信じて取り組んでいる指導者や選手たちがたくさんいます。ことしJ2にはいったばかりの愛媛も、序盤戦は苦しんでいましたが、秋にはいってからぐんぐんと勝ち点を伸ばしています。望月一仁監督の指導によって全員サッカーが浸透し、実を結び始めているのです。(つづく) 大住良之(おおすみ よしゆき) 1951年神奈川県横須賀市生まれ。中学生のとき66年ワールドカップ・イングランド大会の放送を見てサッカーにのめり込む。74年一橋大学卒業後、ベースボール・マガジン社入社、「サッカー・マガジン」編集部勤務。78年より編集長。82年同社退職後、(株)アンサー所属。88年よりフリーランスのサッカージャーナリストとして活動。 74年西ドイツ大会以降7回のワールドカップ取材をはじめ、多くの国際大会、世界各国のサッカー事情を取材。新聞・雑誌を中心に執筆活動を続けている。 アジアサッカー連盟「1998年フットボール・ライター・オブ・ザ・イヤー」受賞。 「日本サッカーライターズ協議会」事務局長。 女子サッカーのクラブチーム「FC PAF」監督。 <主な著書> 「理想のフットボール 敗北する現実」(双葉社 2004) 「代表戦記」(日本経済新聞社 2004) 「がんばれ! 女子サッカー」(共著 岩波書店 2004) 「アジア最終予選」(双葉社 2005) |
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