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サッカー指導のベースにある考え方として、「M−T−M」というものがあります。ふたつの「M」は「Match(試合)」、「T」は「Training(トレーニング)」。すなわち、試合の後にその試合を分析(何が起こったか、なぜ起こったのか、そして改善するべき点は何か)し、それに従って次のトレーニング計画を立案し、練習の場でそのトレーニングを行って次の試合に臨むというサイクルです。 ■「試合は最高の師である」(デットマール・クラマー) 目指すサッカーをするための技術・戦術・フィジカルのトレーニングを続けるだけでなく、実際の試合で起こったことをしっかりと掘り下げ、改善するというトレーニング方法は、選手の成長とチーム力のアップに欠かすことのできない要素なのです。 11月10日に発売された日本サッカー協会監修の『2006FIFAワールドカップドイツJFAテクニカルレポート』は、まさにそれを目指したものです。 ワールドカップでは初出場の1998年フランス大会以来、その他の世界大会やアジアの大会に、日本サッカー協会は現場に技術スタッフを送り込み、「テクニカルレポート」を作成、発表してきました。世界で何が起こっているか、世界のトップクラスは何を目指し、どんな傾向にあるのかを分析し、日本代表が出場している大会であれば、日本チームは何ができて、何ができなかったのかを検証するとともに、これからの日本サッカーの進むべき方向を提案するというものでした。 今回のレポートも、そうした方向性で作成されています。100分間あまりのDVDと小冊子で構成され、技術・戦術の傾向を分析し、日本チームの戦い方を検証しています。以前の大会のテクニカルレポートは、JFAの公認指導者や登録チームしか購入できませんでしたが、今回は大手DVDショップやサッカーショップ、さらにはオンラインのDVDショップなどにも出され、関心のある人なら誰でも買うことができます。一般販売の定価は、6300円です。日本サッカーの発展にとって重要な情報を公開することは非常に大事なことで、進歩であると思います。 ■「甘さ」が許されないサッカー 簡単に内容を紹介しましょう。 2002年大会では、セットプレーからの得点を除く全得点の半数以上が、ボールを奪ってから10秒以内で記録されていましたが、2006年大会では、10秒以内の得点は32%にすぎませんでした。ゴールに至るパスの数も、3本以内での得点が、2002年の62%に対し、51%へと低下しています。すなわち、「カウンターからの得点が激減した」と、レポートは書いています。そして、その原因は、攻撃がまずくなったわけではなく、「カウンターに対する守備が徹底されていた」からだとしています。 「全員の守備意識、守備能力が高いチームが勝つ(ハードワークができる選手が当たり前)」、すなわち、「『甘さ』が許されないサッカー」が、2006年大会の最大の特徴だったと結論づけています。 それでは、このレポートでは、日本代表の戦いはどう評価しているのでしょうか。 「JFAテクニカルレポート」は、「成果」として「良い時間帯では日本のストロングポイントである組織を生かした闘い方ができていた」とし、「われわれの良さを出せた時間帯では世界の真剣勝負の場で対等に闘えるレベルに達したことは事実であり、日本サッカーの進歩ととらえることができる」と繰り返しています。 「課題」としては、以下のような項目が挙げられています。攻撃においては、「状況に応じたボールコントロール」、「高プレッシャー下でのスキル」、「プレッシャーのなか、的確なポストプレーのできるFWの育成」、守備においては、「ボールを奪いに行く積極的な守備」、「個人の守備範囲と判断力」、「攻撃も守備も100%の力で行えるハードワーク」などです。 ■「当たり前」のことを徹底できるか そして、ジーコ監督が率いた今回の日本代表については、「個人の責任という日本人のウイークポイントへの挑戦」を評価しながらも、「克服できたわけではなく、まだその過程」と評価しています。そして「自らが意見を言い、言ったことに対する責任を持ち行動する、論理的に議論ができ、そして協力ができる、リーダーシップのとれる自立した選手の育成」が、いまの日本の大きな課題としています。 さらに今後の方向性としては、「勝った国との差は、最終的な部分の差ではなく、『当たり前』の部分の習慣化、徹底のところでの差であったと考える。勝った国が持っていた、全員の高い技術、全員のハードワーク、全員の戦う姿勢というベースの部分を、もっとレベルアップする必要がある」としています。 ここまでのところは、「ワールドカップ・レベル」に対する「日本サッカーのレベル」の話です。要するに、特効薬はない、近道はないということです。至極まっとうな結論であると思います。(つづく) 第214回 「JFAテクニカルレポート」を読む(中) 第215回 「JFAテクニカルレポート」を読む(下) 大住良之(おおすみ よしゆき) 1951年神奈川県横須賀市生まれ。中学生のとき66年ワールドカップ・イングランド大会の放送を見てサッカーにのめり込む。74年一橋大学卒業後、ベースボール・マガジン社入社、「サッカー・マガジン」編集部勤務。78年より編集長。82年同社退職後、(株)アンサー所属。88年よりフリーランスのサッカージャーナリストとして活動。 74年西ドイツ大会以降7回のワールドカップ取材をはじめ、多くの国際大会、世界各国のサッカー事情を取材。新聞・雑誌を中心に執筆活動を続けている。 アジアサッカー連盟「1998年フットボール・ライター・オブ・ザ・イヤー」受賞。 「日本サッカーライターズ協議会」事務局長。 女子サッカーのクラブチーム「FC PAF」監督。 <主な著書> 「理想のフットボール 敗北する現実」(双葉社 2004) 「代表戦記」(日本経済新聞社 2004) 「がんばれ! 女子サッカー」(共著 岩波書店 2004) 「アジア最終予選」(双葉社 2005) |
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